P 東海道中
「それで、どうなったの?」
イチゴを練乳につけながらK子が訊いてきた。
「どうって、そりゃー・・・」
神妙な顔つきでイチゴをもいでは食べ、話をするワタシ達。
「やったんだ?!」
「・・・」
春ものどかなイチゴ狩り。
ワタシはアディと会った3日後、友達K子とイチゴ狩りツアーに来ていた。
ワタシの住んでいたマンションは、いくつもの謎をかかえる大きなマンションで、共益費もないのに色々な事を行っていた。
クリスマスには豪勢なイルミネーションに正月にはモチつき大会、春には居住者無料のバスツアー。。。
今年からそのバスツアーも友達を1人だけ無料にしてくれると聞いて、K子を誘っていたのだ。
タイトルは『キャバ嬢達の休日inイチゴ狩り』ww
静岡の海岸沿いのイチゴ畑。
ワタシ達は寿司とカニで一杯になったお腹をさすりながらも、イチゴを食べあさっていた。
「節操ないなー、アディ」
「ワタシもな」
家に着いたワタシ達は、とりあえずとばかりにビールを飲んで、
・・・キスをした。
遠慮がちな触れるか触れないかのキスの後、8ヶ月ぶりの懐かしいキスが続いた。
懐かしいけど、でも、胸はドキドキ、心臓はバクバク。
あのそっと近づく恥じらいの中の胸の鼓動。
「だぁって、無理だろぅ! やらずにはいられないだろぅ!」
「まぁ、気持ちは分かるけどね・・・。
ねぇ、これ練乳つけるとすぐ腹いっぱいにならない?」
「・・・聞いてくれよぉ」
「聞いてるよ。だからイチゴ狩りは元が取れないって言うんだなぁ。納得」
「無料なんだからいいじゃん」
「そうでした。ごちそうさま。時間まだあるし、ちょっと歩く?」
「もー、相変わらず自分のペースなんだからー」
ワタシとK子は、海のほうへ歩き出した。
春の海はまだ冬の気配を残している。
「で?」
「でって?」
「どうだった?」
「いや、新鮮だったよ。初めての人とやるみたいだった」
「へー、そんなもんなんだ」
「あ、でも、ちょっとショックな事言われた」
「なんて?」
「『お前、俺と別れてから他の男とやった?』って聞かれて、
『やってないけど、なんで?』って言ったら、『や、腰の動きが良くなった』とか、言われたんだけど」
「ムカツクね」
「でしょう? なんかアディが他の女とやってたのを思い出した。
もー、ピン子と棒姉妹だよ」
「いや、そこはさ、確認したかったんじゃん? イシスが他の男と付き合ったかどうか」
「あ、そうなのか」
「ちっさい男だねー」
「間違いないなぁー」
二人で堤防に座って海を眺める。
ここからならバスも見えるから、集合時間になったらすぐ分かるだろう。
海面に反射する陽光が心地いい。
「それで、アディはなんか言ってきた?」
「いや・・」
「それって、やり逃げってこと?!」
「ううん、今日ワタシが帰ったら連絡くれって言ってた。
だからまた会うんだけど、よりを戻すとかそういう話はしてこなかった。
ワタシもなんか、切り出せなくて・・・」
「それじゃ、最悪セフレになっちゃうよ?」
「うーん・・・それがさ」
「ん?」
アディと会った翌日、Y子から電話がかかってきた。
「イシス? アディはまだいる?」
「いや、もう帰ったよ」
「そっか、おめでとう!」
「?! な、なんで!?」
「より戻ったんでしょ?」
「いや・・・何も言ってこなかった」
「マジで? あれ??」
「え、なになに?」
Y子は心持ち声を抑えて、
「や、昨日さ、イシスがトイレに行ってる間にさ、S尾がアディに電話したんだよ」言った。
「えぇぇ!! なんて?!」
S尾の事だ、何か余計な事を言ったに違いない。
「会ってもいいけどさぁお前、イシスを傷つけるような事だけはするなよ。
やるなら、責任持ってやれよな。って言ってたよ」
S尾がそんな事を・・・。ちょっとほろり。
「何だかんだ言ってもさ、あいつもあいつでイシスの事、心配してるんだよ。
ワタシと会えば、イシスは元気か? って聞いてくるし」
「そうかぁ。悪い事言っちゃったなぁ」
「いいんだよ、根は嫌な奴だから。ww
だからね、アディはちゃんとイシスに言ったんだなと思ってたんだ」
「へー、S尾クンってそんなキャラだったっけ?」
「ねー。でもさ、色々嫌な事言うけど、それにはちょっと感動した。
そういう事言ってくれる人がいたってだけで、なんか救われる」
「確かにねー。じゃ、今日これからなんだ。どっちに転ぶか分かるのは」
「うん」
「でもイシス、イイ顔してるよ。久しぶりに見た。その緩んだ口元」
「あ、マジで?w でもどうなるかわからないけどねー、どうなっても、あの夜はちょっと幸せだったからいいや」
「そんな無理言って。大好き光線、ビシバシですよ。
でも、アディもこれでしらばっくれるような男だったら、かなり引くよ。
あいつは知らないだろうけど、あんた、最悪だったもん」
「そ・・・う?」
「うん。すごかった。あんたは痛々しいなんてもんじゃなかった。
それを知ってるからS尾クンもそこまで言ってくれたんだろうね」
「そうか・・・。ご迷惑かけてすみません」
「ご迷惑じゃないけど、楽しくはなかったな。ww
イイ方向に進むといいね」
「イイ方向がよりを戻すってことなのか、分からないけどね・・」
「もう無理でしょ。封印した想いが解き放たれちゃったんだから。
これはアディの責任よ。S尾クンが言った、そしてやった。
あと、やるべきことは一つだけでしょ」
「拒まなかったワタシの責任は?」
「それは最悪の場合、痛い思いをまたしなくちゃいけないかもしれないけど・・・
今は何も考えずにいろ!
イシスは悪い方向ばっか考え過ぎるから!」
「わかった。あ、バスに人が集まってるよ!」
「やばい、走れー!」
東海道を走るバスの窓を過ぎる富士山を見ながら、ひたすら無心でいようと思った。
K子は責任はないと言ったけれど、やっぱり簡単に部屋にいれて、やったワタシにも責任はあると思う。
その代償として、最悪なことを言われたとしても、もう本当に最後にしようと思った。
その程度の男だったんだと、呆れ、そんな男に振りまわされていた自分を自嘲し、終わりにするだけだ。
八王子に着くまであと3時間。それまでは、少しの休息としよう。
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